大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2648号 判決

控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 乙山一郎

被控訴人 丙川建物株式会社

右代表者代表取締役 丁村二郎

右訴訟代理人弁護士 戊沢三郎

主文

原判決を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。本件訴を却下する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の本案前判決、本案につき「被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴代理人は、次のように述べた。

1  原審は、昭和四七年一二月八日午前一〇時三〇分の口頭弁論期日において被告(控訴人、以下「控訴人」という。)不出頭のまま、弁論を開き、原告(被控訴人、以下「被控訴人」という)代理人により訴状が陳述されたのち、弁論を終結し、判決言渡期日を同月二二日午後一時と指定し、ついで右言渡期日に被告不出頭のまま、判決の言渡をした。

2  しかし、右判決は、控訴人に対し訴状副本も口頭弁論期日呼出状も送達をすることなくなされたものであるから、手続において違法で取り消すべき瑕疵がある。

3  のみならず被控訴人は、誤って控訴人あての訴状副本、口頭弁論期日呼出状を受領した甲野雪子から昭和四七年一二月一日その回付を受け、かつその旨の通知があったことにより、控訴人がこれを受領していないことを知りながら右の事実を秘し、原審裁判所を欺罔して口頭弁論期日を開かせ判決をさせたものであり、しかも、控訴人が右訴状副本、呼出状を受領し得なかったのは、被控訴人が控訴人に対し原判決添付目録(一)記載の建物につき合併してビルディングを新築し共同で使用しようと申し込み、控訴人がこれを承諾しなかったところ、朝に夕に常軌を逸した嫌がらせを行い、高令の寡婦である控訴人をして昭和四七年秋以来○○地方の子のもとに避難するのやむなきに至らせたのであるから、被控訴人は、裁判所に対し判決による救済を求める訴の利益を有していない。なお、控訴人が、甲野太郎の母であることは認めるが、嘗て同人夫婦と住所、居所を共にしたことはないものである。

二  被控訴代理人は、次のように述べた。

1  本件訴状副本の送達は、郵便法所定の特別送達の方法をもって郵便集配人が送達場所である東京都○○区○○○×丁目××番×号山田方に赴き同所で受送達者である控訴人に出会わなかったので、右集配人の判断で事理の弁識能力のある同居者甲野雪子に交付することによって実施されたもので、有効な送達というべきである。

2  控訴人は、すくなくとも昭和四二年一二月五日長男甲野太郎が前記東京都○○区○○○×丁目××番×号山田方に住所を定めるまでは東京都○○○区○○○×丁目××番×号において同人と同居していたものである。

3  本訴提起当時2の○○○×丁目×番××号には、「甲野花子、月子、正夫」三名連記の表札がかかっていたが全員不在であり、控訴人は、普段子供のところを泊り歩いているらしいと聞知したので、被控訴人は、前記東京都○○区○○○×丁目××番×号山田方に住所を定めている控訴人の長男甲野太郎の許に居住しているものとして、その住所地を控訴人に対する送達場所として原審裁判所に上申したのであり、同裁判所を欺罔したものではない。

三  証拠≪省略≫

理由

一  記録によれば、原審は、昭和四七年一二月八日午前一〇時三〇分の口頭弁論期日において控訴人不出頭のまま、弁論を開き、被控訴人により、訴状が陳述されたのち、弁論を終結し、判決言渡期日を同月二二日午後一時と指定し、ついで右指定の言渡期日に控訴人不出頭のまま判決の言渡をしたことが明らかであり、記録二五丁の郵便送達報告書によると前記一二月八日午前一〇時三〇分の口頭弁論期日呼出状、訴状副本、答弁書催告書は、昭和四七年一一月三〇日午前一〇時○○区○○○×丁目××番×号において控訴人本人に直接交付されて適法に送達されたもののように見える。

しかしながら、≪証拠省略≫によれば、前記口頭弁論期日呼出状、訴状副本、答弁書催告状を受領して郵便送達報告書の受領者押印欄に「甲野」の印を押捺した者は、控訴人ではなく、その長男甲野太郎の妻甲野雪子であり、当時控訴人は、右送達のなされた東京都○○区○○○×丁目××番×号山田方甲野太郎には住所も居所もなく、○○○県○○市の長女春子方に居住しており、当時甲野太郎夫妻は、控訴人の居住場所を知りもしなかったこと、もっとも、雪子の夫太郎は、おそくとも昭和一六年九月二日から東京都○○○区○○○○○町××番地において控訴人と同居し、共同して鰻料理屋を経営していたこともあったが、控訴人と太郎の妻雪子と折り合いが悪く、ために太郎夫婦は、昭和三五年頃家を出て、控訴人と別居し、互に往来しなくなり、その後昭和四七年一〇月一五、六日頃控訴人は、家財道具を前記自宅に残したまま○○方面の前叙春子方に身を寄せるに至ったものであり、前記○○○×丁目の甲野太郎方には居住したことも立ち寄ったこともなかったこと、以上の事実が認められる。

してみれば、昭和四七年一二月八日午前一〇時三〇分の期日は、控訴人に対する訴状副本の送達及び期日の呼出がないままで口頭弁論が行われたことに帰着し、これに基づいてされた原判決は、違法であるといわなければならない。

二  よって、原審の判決の手続は、法律に違背し、かつ事件につきなお弁論をする必要があると認められるから、民訴法三八七条、三八九条により原判決を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 兼子徹夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例